yururi-furu’s blog

ゆるりと続けるフルコミ営業

捨てたはずの手紙(湘南台の首つりの家⑪/⑪(不動産百話①))

 

裁判所から弁護士会経由で弁護士事務所

に来た事案は、どんなに忙しくても引き

受けなければならない。

もし引き受けなければ、次が無くなって

しまうかもしれないからです。

 

ただ、弁護士事務所の70%は、従業員

5人以下の個人事務所です。

日本で最大の弁護士法人である「西村あ

さひ法律事務所」さんのように、700

名を超える弁護士さんがいる事務所は、

珍しい。

ここには、外国人弁護士さんも所属して

いますし、アジア各国にも法律事務所を

展開しています。

企業事案が得意な、別格な法律事務所。

 

70%の個人事務所の中には、実質その

弁護士さんが一人でやっている事務所も

ありますし、奥さんと二人でやっている

事務所も多い。

そして現在は、一事案の報酬金額が下が

って事案数だけ増えているような感じに

なっている。

忙しいからある程度のところからは、僕

達に任せるしかなくなってきています。

 

今回の事案が契約になり、住宅ローンの

審査も通って、残代金決済・物件引き渡

しの日が近づいてきました。

 

相手の仲介業者さん経由で、司法書士

んと登記関係も打ち合わせ済み。

残っていた車やまったく使えない残置物

の処分をしているところへ、K弁護士さ

んから電話がありました。

「あの手紙や、前の所有者の名前なんか

が入っているもの、個人情報に当たるも

のだけ、事前に処分しておいて」とのこ

とです。

確かに、それは要らないし、見なくても

いいもの。

 

決済の数日前に建物に入り、あの手紙や

個人情報が入った書類なんかをビニール

袋に詰め込んでいく。

 

でも、今回の買主さんに決まってから、

2階の足音、跳ねる音や咳払いがまった

く無くなりました。

変な雰囲気も無くなっています。

 

数日後、残代金決済を行い、物件引き渡

し確認のために、お客さん、仲介業者さ

ん、僕が建物の中に入ります。

 

全員で2階の奥の部屋に行ったところで

奥さんが、封筒を見つけました。

和室8畳の真ん中に、封筒。

捨てたはずの、あの手紙が入った封筒。

 

奥さんが「見てもいいのかな」と言いな

がら、中の手紙を出します。

 

ご主人と一緒に読んだあと、

「きっと、宜しくお願いしますってこと

なんだろうね」

「この手紙もらっていいですよね。後で

供養したいんで」

 

間違いなくその手紙は、僕が廃棄してい

ます。

だけどここに、2階の奥の和室にその手

紙は、またありました・・・・・。

 

 

10年以上経った今でもその家の近くを

通ると、つい家を見てしまいます。

でも、大丈夫だったみたいです。

小学生になったあの赤ちゃんが、元気に

帰ってきたのを、奥さんにこやかに迎え

ていました。