もと広島カープのエースだった北別府さん
が亡くなりました。プロでは 213勝を上
げた偉大な投手で、そのコントロールの良
さから「精密機械」と呼ばれていた。
北別府さんは、2020年1月に「成人 T
細胞白血病(ATL)」を発症していました。
息子さんをドナーとする骨髄移植を受けま
したが、その後も様々な病気を患って入退
院を繰り返し、最後は移植の後遺症が原因
となりました。
65歳で逝くのは、まだ早すぎます。
生前の北別府さんはこういったことを話し
ていた。
「無菌室の間はキツかった。1ヶ月が、2
ヶ月にも 3ヶ月にも感じた」
「野球の練習はすごくキツくて、こんな大
変なものはないと思っていたけど、無菌室
は比べ物にならないぐらい大変だった」
妻はこの時点で、無菌室生活は 2ヶ月間を
超えていました。そして最終的には無菌室
に、3ヶ月と7日間入院していました。
北別府さんの言葉通りだとすると、妻には
無菌室生活は、1年かそれ以上にも感じた
のかもしれません。
だったら、平常心でいるのは絶対に無理な
ことです。
現役時代の北別府投手
2022年は、妻と結婚してから 30年め
でした。
あまり無いことかもしれませんが、僕と妻
はケンカをしたことがありません。強い言
葉を使ったり、怒ったこともほぼない。
だから妻がこんな感じで一点を見つめなが
ら、やっと一口にも満たないご飯を食べ
「食べないとお父さんに怒られちゃう」
また 10粒程度をやっと口に運び
「食べないとお父さんに怒られちゃう」と
繰り返すのが理解できませんでした。
内線電話で僕が
「怒ったりしてないから、無理しないで」
と言っているのを聞きつけた看護師さんが
「お父さんは怒ったりしてないよ」と声を
かけてくれたにもかかわらず
「食べないとお父さんに怒られちゃう」と
一点を見つめたまま、また数粒だけのご飯
を口に運ぶ。
なにか、何も見えないで、何も聞こえてい
ないようなこの出来ごとが、実は「生きる
ためのヒントの一つ」だったのですが、こ
の時の僕には分かりませんでした。